背伸びして ベガへと続く 屏風岩

初めての穂高屏風岩
1998.6.19.〜22.

 今年3月、中級登山学校を修了して「行かねばならぬ」の日々から解放され、さて、これから・・・と考えていた頃、ちょうど会の総会があり、屏風岩をめざそうとお声がかかり、内心まだ無理だわ・・・と思いながらも、まぁ、目標は大きく持って、とにかく頑張ろうと思ってしまった。
 そうして、月日が流れ、半分諦めの気持ちが大きくなる中で、N川さんのお骨折りがあり、OWCCのA木さんとATCのS上さんのパーティに入れてもらえることになった。

6月20日
 JRとは思えないような急行「ちくま」の中、目を覚ますと、やけに明るくなったなと思ったら、大雨の中、松本へは1時間の延着であった。
 6:50 私達は上高地集合だったので、
 「待った、待った」と迎えてくれるA木さんとS上君と横尾に向かいすごいスピードで歩き出す。
 途中、S上君が私に、
 「すごく速いね」と。
 「そう、必死で歩いているよ」と返事すれば、
 「あ〜よかった、こんなもんじゃないって言われたらどうしようかと思ったよ」と。
 初対面の彼だったけど、なんとなく楽しい山行になりそうな予感がする。
 9:30 横尾のいつものところというところにデポして、先を急ぐ。岩小屋跡から水量の多い川を胸まで浸かって転びながら渡渉する。メチャメチャ冷たい。1ルンゼ押出しをウド、フキ、コウモリソウ、ミヤマメシダを摘みながら歩くと、屏風の壁がせまってくるような迫力に襲われる。雪壁を登るって聞いていたけど、今年は全くない。
 13:50 T4テラスより予定を変更して、蒼稜ルートを空身で登る。
 1P目から孫の手の出番となる。昨夜の電車の中で、N川さんに調整していただいたおかげで、ヒョイと掛けられるが、なにしろぶっつけ本番なので、時間がかかる。
 2P目はお助けシュリンゲに助けられた。
 15:40 懸垂してT4テラスに戻る。ビバーグといっても、すごく贅沢なビバーグで、ごはんを炊き、山菜グルメの数々、コウモリソウのおひたし、ウドのバター炒め、ミヤマメシダは最初黒い虫がついているように見えて気持ち悪かったが、その黒い弁を丁寧にとると、グルメの一品に変身していた。S畑ご夫妻と星空の下、こんなに和やかに過ごしてもいいのかしらと思いながら、楽しく夜は更けていった。

6月21日
 5:00 昨夜は星空だったのに、怪しい雲がウロウロする中、雲稜ルートを登ることとなる。
 1P目 またまたアブミだけど、凹角に入ってしまうと、体が上手に使えない。
そんなアタフタしている時だった。左足が少し触れたかなと思った瞬間、「ラクッ」と叫んだ私の念力(?)のせいか、途中でコナゴナになって落ちていった。真下のT4テラスにはプロガイド率いる4人パーティがいた。
 「すみません〜」大事に至らず幸いだったが、心臓がドキドキ飛び出してきそうで、10分程身体が硬直して動かなかった。 A木さんは10秒ほどですぐ登ってきたとおしゃっていたが・・・
 2P目 後ろのプロガイドが追い越して、ビレイ点をとったので、余計におっかないところを登る。
 3P目 扇岩テラスからA木さんは新しいシュリンゲを取り替えながら登っていかれる。すぐ上をM本ご夫妻が登っていらして、声をかけてくださる。なんとなく朗らかな気持ちになる。
 4P目 草付、ルンゼを登り終わると、今日はここで終了となる。
 「次回はトップで登るんだよ」とA木さんの言葉に、
 「エエッ、そんな・・・」と思ったけど、
 「NO」とはとても言えない雰囲気だったので、少しうつむいて、
 「ハイ」と答える。
 9:30 蒼稜ルートに移って、懸垂下降。次々と登ってくるパーティがいて、途中狭いリッジで待機したので、T4テラス12:00。  15:20 横尾のBCに着く頃、ポツポツ雨が落ちてきた。S上君はそのまま上高地まで走り、A木さんは膝の痛みがあり、小屋へ。あのような痛みをもって、屏風というとてつもなく大きな山へ私を受け入れてくださったと感謝の気持ちで胸が締め付けられる。そんなすごい方からの宿題を重ね合わせると、ゾクゾク、ブルブル・・・
 本降りになった雨音をBGMにBCで交信してくださった方々のごちそうを感謝の手を合わせながら、さっきまでの屏風の壁が頭から離れず、ただボォ〜としておよばれする。

6月22日
 雨は小止みになり、新緑がまぶしく輝きだす。噂に聞く白い花の舞いは見当たらない。次回の楽しみ(課題)がまたひとつ増えてしまった。

 家へ帰るやいなや、中級の同級生から、
 「どうだった?」というTELをもらった。
 「屏風岩とはそういうところなんだ」という感慨と裏腹に、
 「少し普通の生活をしよう」と。
 ずっと仕事をやりくりして、大阪行きの電車に乗るとホッとしてしまう毎日だったから。もうおしゃれや流行に興味がなくなるのではないかと感じる日々も。
 「あんたは前しか見てへん」とおっしゃったA木氏の言葉に答えられる山行も視野に入れて。

home