三ツ釜や 羽衣まとひ 流れけり

初級夏山登山学校・清津川釜川右俣
2012.7.26.〜29.

 先々週海の日連休四国遠征が梅雨末期の豪雨(九州北部豪雨)で中止となり、私のとってこれが今年初沢となる。
 少々不安もあり、7月に入ってから倉庫の階段でボッカトレ。倉庫内は蒸し風呂状態だけど、昨年の3ヶ月ブランクで横尾へ行った時のバテバテを考え、ランニングよりボッカ!と考えた。気持ち的に少し違うかな・・・

7月26日(木)晴れ
 22:00 今年は受講生が多いので大型バス。また先日のバス事故もあり、運転手さんは2人。
 30分も前に来たのに、すでに一般社会人でない人がたくさん。でも座席は確保くださった。だんだん取り残されていきそうな不安な気分もすぐこの雰囲気の中で和んでいく。
 吹田SAへ寄り、多賀SAより就寝。

7月27日(金)晴れ
 久しぶりのお天気心配なしの山行!戻り梅雨も終わり、ホントの梅雨明け10日が始まっている。コーチ17名受講生11名、計28名。

 7:15 グリーンピア津南から林道へ。すでに汗がボロボロ、道はカラカラ。
 9:00 通行止めゲートから東への道を下ると、すぐ釜川取水口へ出た。太陽ギラギラ、水はキラキラ、山はケラケラ笑っている。そう全てが輝いている。
 巨岩がゴロゴロしている本流を進むが、雨はここ数日降っていないので水量は少ない。

 受講生にとっては、初めての沢実技ではないはずなのに、なぜか全体的にウロウロモタモタ。エッ???
 私でもこんな雨の全く心配のない時に山に沢に入って、もうそれだけで自然と高揚感があふれでて、気持ちがウキウキ・ワクワク・ルンルンたまらなくなってくるのに、その気勢、覇気のようなものが感じられない。大きな沢で戸惑っているの?なんかおかしい・・・

 ペアを組んだ受講生を何度も振り返る。全体的にゆっくりなので、校長の「こんな調子では苗場山は行けない!」とハッパかかった。

 30mのトロは右を高巻く。とにかく人数が多いので仕方ないのだが、時間がかかる。
 11:40 やっと釜川右俣左俣の分岐↓。コースタイムではここまで30分なのに、エッ?

 11:50 右俣を進んでいくと第1ゴルジュ。4mチョックストン滝↓は左岸を泳いでヌルヌル斜め岩を登る。トップがロープをベタ張りしてくれるので、ありがたいが、時間もかかる。滑ってハーケン抜く新人コーチもいるし・・・

 13:40 F1-5m滝↓は右側を泳いで取り付く。工作ロープを手繰りながら辿りついた。ザックに浮き袋を入れてあるので気持ち的に安心だった。

 15:30 F2-5m滝↓は胸まで最後は引っ張られて取り付き、左壁凹角を登る。苔がいっぱいだが、ガバで安心して登る。

 17:30 20mのトロと2mのチョックストン滝↓は胸までつかり、右壁をよじ登る。

 受講生は午後になって少し沢に慣れてくれたかな〜と思ったが、ひとつひとつの行動を待っていられなくて、ついつい手が出てしまう。スピーディ=セーフティ!
 なんとなく例年よりみんなほんわかスローペース。岩もとても難しそうに登っている。

 ところどころの残雪にこの山の深さを思う。そしてだんだん流れがやさしくなってきた。もしかしたらもうすぐ・・・

流れ落つ 水真っ白き 滝となる
 18:20 やっとやっと三ツ釜↓・・・素晴らしい! これこそ自然の造形美、沢をやっている者でしかお目にかかれないまさに絶景! ガイドブックの表紙を飾るにふさわしい壮大で美しい景色!

 暮れゆく時間の中に、白い何重もの線が柔らかく流れている。ここからは大きな釜が真ん中にひとつ見え、2段にしか見えないが、その雄大さは心惹きつけるものがある。イライラしながらここまできた気持ちを受け入れ、そして一挙に解き放たれていくようだった。
 F3となる三ツ釜は、本流で二つ、左岸より枝沢のヤド沢から二つの釜の中間に出合って、一つの釜を形成し、合わせて三つの釜を成している。両岸とも大スラブで囲まれており壮大な景色だ。

 しかし、今日はここまで。ここでビバーグとなる。
 どこかの岩登りで親指の爪が少しはがれたようで、テーピングテープをいただいた。以前、柔道無差別級のオリンピック選手が組み合うと爪がはがれるので、マニキュアを何回も塗っているということを聞いて、爪切りとマニキュアは忘れないようにしていたのだが、今回は不精してしまった。
 濡れた衣服を着替えるとさっぱりした。チャチャッと夕食を作り、すぐ就寝した。
 夜半、ポツポツ。逃げる用意と思ったが、ほんのポツポツだけだった。そしてまた雲が流れたのか、満天の星空が広がった。

7月28日(土)晴れ
 6:00 もう苗場山には行けないけど、今日は三ノ沢橋までは行かないと・・・
 三ツ釜本流は2段滝で下段は水流右リッジを登る。

「エッ?」タイブロックの装着が・・・
「間違った?アハハハ・・・」もう信じられない!

 ベタ足で、フリクションをきかせて、スラブを登り、草付きをトラバース。またテンションかかりハーケン1本抜ける。Y田コーチがロープを素手でグッと掴み難なく・・・ホォ〜
 振り返る三ツ釜↓の姿はなだらかで美しい。

 2段目↓は水流左へ渡り、ナメを直登。

 振り返るヤド沢からの3ツ目の釜↓も同じく美しい姿をしている。

 これから今までのトロやゴルジュをもった沢とは一変し、ナメ滝が連続する。

 ウォータースライダーできるとガイドには載っていたが、そんな気分は全くなく、遊ぶ暇はない。

急流の 底に動かぬ 岩魚かな
 再びゴルジュの沢となる。時々受講生と二人取り残され、前を歩くとラッキーなことに大きな岩魚に出会える。今日は釣りをする余裕もないなぁ〜

 9:50 F4-14m滝は左壁を巻くのだが、受講生はザックが重いので、ザックだけ引き上げし、空身で登らせる。それでも時間がかかる。ザック引き上げの男性コーチはこれでド疲れ、腕パンパンだとか・・・
 10:40 F5-8m滝は左壁凹角を登る。ここもザックだけ引き上げる。

 11:30 F6-12m滝↓は右岸をへつり、滝左を直登。ここもザックだけ引き上げる。
 今朝から登ってきたという若い男性2人、男女2人の2パーティが追い越してゆく。1パーティはヘルメットありの沢装備だが、もう1パーティ男女の男性は、なななんと、ヘルメットなし、綿混のジャージにバスケットシューズのようなスニーカー。エッ?目が点になる。勿論フリーでアッという間に登っていった。我々がどれだけ遅いか・・・

 13:50 6m二段滝↓は左ヤブを巻き、懸垂下降。「ドーン」大きな落石あり。

 16:30 清水沢出合い直前のF7-12m滝手前の15mトロを泳いでいくのだが、対岸は落石多く、トロ手前で順番を待つ。
 右岸岩壁凹角を巻く。空身でもなかなか順調に行かない。
 18:30 今までやせ我慢してきたけど、雨具を着る。やっと対岸へ全員渡れたけど、真暗闇が迫っている。
 19:00 結局、先発11名と別れ、後発17名は真っ暗の中、トロをまた戻り、トロ手前の河原でビバーグとなった。
 山中2泊。初級始まって以来の出来事。昨日朝歩き始めた時の不安が的中した。

「少々の下山遅れよりも、事故のないことが一番」
 ブルブル震えながら暗闇の中で着替えをし、食欲ないけど少しだけ口に入れる。焚き火が目に優しい。ゴツゴツした岩の上でも、すぐ睡魔が襲ってきた。
 夜半目が覚めたら、満天の星空。沢の中なのでスペースは限られているが、昨夜よりキラキラ、半月も輝いている。
釜川の 夜毎に空を めぐりけり

7月29日(日)晴れ
 5:30 「おいでおいで」と、M本コーチが対岸で手招きして迎えに来てくれている。
 「あーあ・・・」 朝一番から意を決して昨夜のトロを胸まで、途中シュリンゲ頼りに泳いで渡る。
 ズルズルの草付きを這い上がり、左の凹角を登る。下からはもっと絶壁のように見えたが、お助けシュリンゲもかけてくれてあるし、問題はないはず。その後懸垂下降。
 降り立ったところが清水沢出合い↓

 7:40 本来は右俣を遡行するが、中央を少しヤブコギして、左俣へ出る。源流らしき沢歩き後、最後、少しだけ笹のヤブコギして、林道へ出た。10:20

 長々と林道を歩き、小松原登山口を経て、一昨日のゲートを過ぎて、津南へ。道なりに歩いていると、間違ってしまったようで、出会った村のおじさんがグリーンピア津南まで約5km、なんと軽トラの荷台に乗せてくださった。後続のみんなも間違ったようで、結局4回往復してくださった。なんと親切な!とてもありがたい!感謝感謝の極み!

 15:30 長野県栄村中条温泉トマトの国(トマト風呂ではなかった)にへぇり、まぁ〜ずいやんべだ〜(栄村方言・いいあんばいだ)
 帰阪は翌日0時過ぎになった。終電はすでに終わっていて、ネットカフェ初体験して、始発電車で帰宅した。



やまびこの 魂抜けたる 夏嶺かな
 帰路のバスの中では、受講生から感想会と称してマイクが回った。反省会ではないの?
 前半は順調山行風の感想だったが、後半、正コーチ陣に回ると、とても厳しい感想に豹変した。みんな感じていることは一緒だった。コーチとして参加させていただいて11年目になるが、こんな厳しい感想を聞かされるのは初めてだった。

 例年体力が伴わないでバテバテの受講生が一人や二人いるが、それでも一生懸命必死で取り組んでいる姿勢が感じられた。勿論、中には素直に頑張って、日に日に進歩がハッキリ目に見える受講生もいる。
 ザックが重いとか、人数が多いとか、長時間行動に不慣れとかいうバージョンではなく、最近の社会全般の風潮かもしれないが、なんかとても不思議な雰囲気が全般に漂っていた。ロンドンオリンピックの凄まじい気迫や闘志とは全く正反対のものが。

 しかし、校長やコーチは、絶対事故は起こしてはならない!と命懸けでやっている。3日間よく緊張感途切れることなく持続できたと思う。K原校長のもと、これまでの信頼関係があるからこそ、少しの下山遅れだけで無事下山できたのだと思う。ホントにホント、お疲れさまでした。筋肉痛なんて全くなかったのに、なぜか疲れましたデス。

雲の峰 自分の弱さ 見つめをり

(2012.8.10.記)

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