思い出を 遥かに置きて いわし雲

六つ星フォーラム25
2006.10.15.

 東京の視覚障害者と一緒に山に登る会・六つ星山の会の創立25周年を記念して、六つ星フォーラム25が開催された。最近は全く疎遠だけど・・・
 伊賀上野から名古屋まで、高速バスで1時間半、名古屋から東京まで、新幹線のぞみで1時間40分。あっという間に雪のない富士山を眺め、東京に着いた。
 暖秋というのか、10月中旬というのに半袖でちょうどいい。でも、東京に着くと、少しひんやり・・・そう、迎えに来てくれた六つ星のK野さんはジャケット姿だった。

黒猫と 登る坂道 秋日和
 渋谷で昼食を済ませ、下高井戸駅から会場の日本大学文理学部百周年記念館への坂を上る。学生たちが元気よくビラを配っている。黒猫もしっぽをピンとたてて、まだ全然紅葉していない街路樹の中をゆったり歩いている。せわしくここまで来たけれど、温和な学生街がそこにあった。
 受付にて、懐かしい人達と再会。今日はお祝いの日という晴れやかな雰囲気が漂っていた。
 M本ご夫妻はここまでやってきたという自信がみなぎり、オーラを感じてしまうほどキラキラ輝いていらっしゃった。
「やはり、来たんだね」とN村さんにはバッチリ言われてしまって、あ〜あ、私には「やはり・・・」がつくのかなぁ〜
 200人収容の会場はアッという間にいっぱいになった。HCかざぐるまからはH嘉代表、新潟からはS鳥さん、京都はH谷川さん。
 主催者六つ星山の会会長・S田さん、点字図書館館長・I上氏の挨拶に続き、M山君、N沢さんの体験談。
 小さい頃から参加していたM山君は、背の高い中学生。元会長のN沢さんは全然変わらず、今もバイタリティーあふれている。
 バリアフリーなんていう言葉も知られていない、障害者に対するマニュアルもなかった20年以上前のN沢さんのお話。ある日、いつもの電車がストップし、集合場所に行く方法がわからなかった時、彼女は駅構内で「○○まで行きたいので、どなたかお願いします」と大声で叫んでみた。案内してくれる人がいて、集合場所までたどり着いたと。N沢さんらしいな〜と微笑ましく拝聴した。私もそう、そんな勇気に感動して、ここまでやってきたような気がする。
 続いて、パネルディスカッションが行われ、5人のパネラーによる"今後の障害者登山""サポート増加のために"が話し合われた。
 社会の理解やITの活用、登山教育の充実など、多方面よりいろいろ提案され、上手にコーディネートもされて、パネラーの情熱がすごく率直に伝わり、このディスカッションはとても好感できて、とてもとてもよかった。
 まぁ、後で友達と「そうねぇ〜」だけど、「そういってもねぇ〜」と、私達は今までぶつかってきた壁に立ち往生って感じが拭えないところもあった。だけど、M本さんを見ていると、"継続は力なり"がヒシヒシ伝わってきて"初心に帰ろう、そう努力をしよう"とあの頃の気持ちを思い出させてもらえた機会でもあった。
 もう1人の元六つ星の友達に会いたくて、T部井さんの講演は聞かずに会場をあとにした。

 3人で新宿から都庁の展望台へ。富士山は霞んで見えなかったけど、いわし雲を見上げて沈む夕日は、茜色に染まった空に特別大きく美しく見えた。
 3人の話題は、今現在のそれぞれの事情に移っていた。親の介護や個人的な事情に。元六つ星の友達も、現六つ星の友達も、そして私も今は距離を置いている。「でもまた一緒にできる時はよろしく!」と、ただ今は心の中でつぶやくだけ。思い出をいわし雲の上に置いといて・・・
 六つ星がいつも集まるという新宿の飲み屋さんへ行って、帰りは品川から直通夜行バスで帰ったという、忙しかったけど暖かな気持ちに包まれた暖かな秋の一日が終わっていった。

(2006.11.3.記)

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